ドクターヘリは、患者(傷病者)を救うために「現場出動」し、初期治療を施しながら救急病院へ搬送します。
このほかに、医療機関から別の医療機関へ患者を運ぶ「施設間搬送」も行います。
より高度な医療を必要とする患者を搬送するためです。
また医療過疎の住民は遠く離れた医療機関へ行くことができないため、手段として「地域医療」のためにドクターヘリを出動させることもあります。
このように現在では、ドクターヘリは欠かせない存在だといえるでしょう。
そのヘリに乗り活躍するフライトナース。
その職に就くためには、どのような事をしたら良いのでしょうか?
後編では、フライトナースになるための条件や、フライトナースに向いている性格などを紹介します。
目次
フライトナースになるための道のり
前編にも書きましたが、正看護師の国家資格に合格していれば、フライトナースを目指すことができます。
しかし、幾つかクリアしなければいけない条件があり、それを日本航空医療学会や厚生労働省は提示しています。
条件を満たすラインは下記の6項目です。
- 正看護師として5年以上の実務経験がある
- 救急医療の現場で3年以上の経験がある
- 救命救急医療に関するACLSプロバイダーと、JPTECプロバイダーを取得しているか、同等の知識やスキルを有していること
- 日本航空医療学会が主催するドクターヘリの講習会を受講していること
- 第三級陸上特殊無線技士の資格を取得していること
- 救急看護師としてリーダーを務めていること
詳しく説明します。
まず、正看護師の実務経験5年以上+救急医療の現場で3年以上=8年以上という意味ではありません。
正看護師経験5年以上(うち救急看護経験3年以上)という意味です。
つまり、最初から救急救命センターへ就職し、5年間のうち3年間を救命救急で働いれていれば、最短時間で条件をクリアできていると捉えてください。
前編で示したドクターヘリを要している救命救急センターへ就職することをお勧めします。
といっても、かなり競争率の高い就職になるかと思います。
ACLSプロバイダーとは、アメリカ心臓協会(AHA)と正式に提携した国際トレーニング組織・日本ACLS協会が認定する二次救命処置提供者の資格です。
取得するためには、コースの講習を受講し、その後に試験を受けます。
合格基準は、実技評価の基準を満たすこと、筆記試験の正解率が84%以上であることです。
講習では、心肺停止および心拍再開直後の治療、急性冠症候群、急性期脳卒中などを習います。
対象患者は、乳児・小児から成人まで全範囲となっています。
JPTECプロバイダーとは、日本救急医学会の下部組織として発足したJPTEC協議会が認定する資格です。
プレホスピタルケア(病院前救護)を適切に行うために考案されました。
こちらもコースの講習を受講し、実技試験と筆記試験に合格しなければいけません。
合格基準は、実技評価の基準を満たすこと、筆記試験は正解率が74%以上であることです。
講習では、気道管理、頚椎カラーの装備、体位変換など、初期治療で必要な観察・処置・搬送を習います。
講習では、救急隊が使用する機器などの専門用語もたくさん登場するので、ある程度の事前学習をしておくようにしましょう。
第三級陸上特殊無線技士とは、日本無線協会が実施する国家資格です。
これは、陸上の無線局の無線設備を操作するための資格。
独学(自主勉強)で試験を受ける方法と、1日特殊無線技術技能士の講習を受け、最後に修了試験をうけて合格する方法の2つがあります。
講習では「無線工学」と「法規」について学びますが、第三級陸上特殊無線技士は基礎分野の暗記問題が多いため、無線系の知識がほぼない状態で受験しても、7割~8割の人が合格できるレベルです。
非常に取得しやすい資格と言えるでしょう。
もし、ゆとりがあるならば、PALSプロバイダーも取っておくと良いでしょう。
PALSは「小児二次救命救急」と訳します。
成人のACLSプロバイダーとは違うコンセプトです。
こちらは、小児の心停止予防と心停止後の二次救命処置の知識を得られる資格です。
小児の状態を評価・分類し、緊急度を判定して適切な処置を行うための思考パターンを養うトレーニングを行います。
フライトナースに求められる資質
6つある項目の中で1番重要視されているのは「救急看護師としてリーダーを務めていること」です。
看護師経験5年以上(救急看護師3年以上)という実務経験を言い換えれば「それだけの経験でリーダーシップをとれるような人材になってください」という要望です。
大きな災害や事故がおきた時、現場は混沌とします。
警察官、消防隊、自衛隊、レスキュー隊など多くの人が現場に入ります。
ためらったり気後れしたりしていては、医療処置が後手にまわってしまいます。
円滑に任務を遂行するためには、初対面の現場関係者とスムーズなコミュニケーションをとり、積極的にこちらの意見を伝えなければいけません。
つまりリーダーシップをとりながら、こちらが行いたい診療を行うのです。
このコミュニケーション力とリーダー力は必須とお考えください。
それだけではありません。
現場では、フライトドクターがやりたいことを先回りして診療の介助を行います。
複数の傷病者がいるときは、診療の優先順位を付けたり、現場を仕切ったりします。
フライトドクターが初期診療しやすいように場を整えるのも役目です。
しかも、救急バッグの中にあるものは限られていますから「あの用具を使いたいのにない」という場面も多々あります。
ないものを悔やむのではなく、あるものの中で工夫はできないか、応用がきくものはないかと、柔軟な発想で乗り越えていかねばなりません。
一言でいえば、臨機応変さも求められているのです。
その様な逆境に強い人がフライトナースに向いていると言えるでしょう。
もうひとつは、最新の救急医療に向上心を持っている人も適性があると言えます。
常に学びに対し手を止めない人はとても貴重な人材です。
さて、上記の資格を幾つも得て、条件もクリアしていたならば必ずフライトナースになれる、と力強く書きたいところですが、現実はそうではありません・・・残念ながら。
いくら優秀な看護師であっても、フライトナースに相応しい人材と判断されなければ希望は通らないのです。
多くの病院では、条件の6項目に加え、最後に<救命救急センターの師長の推薦>や<病院長、看護部長の承認を得た者>を条件に加えています。
これは何を意味するかというと、技能と人間性を持ち合わせた看護師だけがフライトナースに任命される、ということです。
病院側は、志願者がフライトナースの適正に合っているかどうかをとても重要視しているのです。
それだけ、混沌として現場では人間力が必要と考えられているからです。
最後の難関を突破し、推薦や承認を得てフライトナースに選出された看護師は、選び抜かれたスペシャリストと言えるでしょう!
人命救助の最前線で戦うフライトナース、今日も大空で活躍しています。
まとめ
最後に、フライトナースの職に就いて良かったと思えるであろう事を幾つか紹介します。
第一は評判! 救命救急の中でもフライトナースはさらに専門的な仕事のために、その職に就けるのはごく一部の人です。
技量だけでなく人間的にも素晴らしい人だとの折り紙付きの評判は嬉しいことです。
第二に、フライトナースの給与は救急看護師の給与のほかに、危険手当や待遇手当が付くため、年収がアップすることです。
第三は、フライトナースを辞めた後でも、人生設計が豊になること。
たとえば、フライトナースを育成する部署に廻ったり、救命救急に限らずICUなどの管理職に就けたりします。
経験や実績をもとに、選択肢が広がっていくのはとても魅力的といえるでしょう。
さあ、あなたもキャリアチェンジして、フライトナースを目指しませんか?