空港や港湾で、感染者を発見するために検疫を行っているニュースをよく見かけます。
病原体から身を守る個人防護具(PPE)を身にまとい、顔には医療用マスクと透明樹脂の顔を覆うゴーグル、ゴム手袋に靴カバーといった完全防備姿。
長い綿棒を持つと、鼻か口へするすると入れていく。
粘液を採取するあの方々は、誰なのでしょう?
答は検疫官です。
検疫官は出入国者の健康状態を診る仕事。
では、誰が行っているのでしょう?
答は医師と看護師です。
あの検体採取は、医療の資格を持っていないとできない作業なのです。
しかも、検疫官は国家公務員!
そこで提案です。
もし、あなたが臨床の看護職を離れたいと思っているならば“検疫官として働く”仕事はいかがでしょうか。
今回は、検疫官の仕事内容と就職の仕方について詳しく説明します。
目次
検疫とは? 検疫官とは?
検疫とは「国内に常在しない感染症の病原体が船舶や航空機を介して国内に侵入することを防止する」ことです。
そこで働く検疫官は、厚生労働省の管轄になります。
検疫官を正式に表記すると、「厚生労働技官 検疫官(医師)」「厚生労働技官 検疫官(看護師)」です。
正式名称が長いので、検疫を行う看護師を「検疫看」「検疫ナース」と呼びますが、ここでは検疫看として書くことにします。
新型コロナウイルスが話題になってから、空港や港湾では厳重な検査態勢が敷かれるようになりました。
と同時に、検疫官という仕事の注目度も高まりました。
検疫官は検疫所に勤務し、検疫法に基づいて感染症に対する検疫業務、衛生検査、健康相談業務、予防接種業務を担当します。
検疫看は、看護師免許を持っていることが必須。
つまり、検体採取は医師と看護師が担当しているのです。
空港や港湾などにある検疫所では、帰国の際には、必ず検疫が行われています。
では、イメージしてみましょう。
あなたが海外から成田空港に帰ってきたとします。
検疫する方法の最初は、サーモグラフィーを使い発熱があるかを調べることです。
これは主に行政職員や検疫看が担当しています。
発熱や咳などの症状ある人をはじめ、体調や健康に不安ある人、相談したいことがある人などは、相談室へ誘導されます。
そこで検疫官(医師)と検疫看が症状を見極めます。
たとえば渡航先や渡航期間などを参考にしながら、改めて検温や問診、採血などが行われるのです。
潜伏期間も考慮して、感染症の疑いがあるときは本格的な検査を行います。
これが基本ルートですが、現在は新型コロナウイルス感染症対策として、クイック検査(抗原定量検査(ウイルスのもつ特徴的なたんぱく質<抗原>を調べる検査)+PCR検査(ウイルスを特徴づける遺伝子配列の有無を検出する検査)が行われています。
抗原定量検査の結果が出るには30分~1時間かかります(人数や状況によって数時間かかることも)。
陰性が出れば検査フォローアップ対象者となり、自宅やホテルといった目的地へ移動できます。
ただし陰性の結果だったとしても、同じ飛行機や船舶に陽性者が出た場合は、濃厚接触者に該当することもあります。
ですから帰国日を0日目として14日目までは公共交通機関を使うことはできません。
フォローアップ期間とは健康観察期間なのです。
もし濃厚接触者に該当した時は、保健所の指導に従うことになります。
一方、自分自身が陽性者になったときは、検疫看の指示に従います。
検疫看は行政職員と連携をとり、医療機関や指定施設(療養施設・待機施設)などでの隔離・待機をサポートします。
空港や港湾に到着する前に、あらかじめ「有症者がいそうだ」との連絡が入ったときには、検疫官(医師)や検疫看は機内や船内に乗り込めるように準備をして、到着を迎えます。
機内・船内で有症者の問診や検査を行うほか、乗客からも聞き取りなどを行い、国内へ感染症が進入しないための適切な措置をとります。
つまり、検疫看の検疫業務とは、感染している患者を速く発見し、健康状態を確認。
感染症の検査を行い、感染者には隔離・停留(その場に待機してもらうこと)を促すこと、また消毒などの防疫措置をとることです。
まだまだある検疫看の仕事
「検疫業務」を説明してきましたが、病院での看護業務とはかなり違う印象だったのではないでしょうか。
臨床現場では目の前の人を助けようとしますが、検疫看は国民の健康を守ろうとします。
そこが決定的に違う点です。
また、検疫看はどのくらい有症者がいたかを書類にして報告しなければいけません。
事務仕事は格段に多くなります。
加えて、検疫看は下記の3つの仕事を担当します。
衛生検査
衛生検査とは、蚊やねずみなどの生き物が空港、港湾、港湾周辺地区から感染症などの病原体を持ち込まないかを検査する仕事です。
感染症は動物を媒介するものが多いことをご存知でしょうか。
ペスト、マラリア、テング熱などは有名です。
空港で働く検疫看は、航空機の衛生検査を行います。
港湾で働く検疫看は、船内の衛生状況を検査します。
飛行機に比べて船舶は、輸送期間が長く、コンテナなどは不衛生になりがちです。
そのため船内で害虫が発生していないか、水や食料は適切に管理されているか、消毒機材が整備されているか、などの検査に同行するのです。
船舶における総合的な衛生検査を行い、国際渡航に必要な証明書の発給に関わります。
健康相談業務
検疫所で健康相談を直に受け付けます。
感染症以外にも「旅先での食事が合わなく下痢や腹痛を起こした」「船酔いした」「時差の関係で頭痛がする」といった相談にものります。
ただし、検疫所では治療や薬の提供ができないため、話を聞いた後は、医療機関の受診を勧めることが多いようです。
電話での健康相談も受け付けています。
たとえば「渡航先から帰ってきて陰性だと言われたが、この様な症状が出てきて心配している」「帰国後、身体が重く感じる。感染したのではないか。基礎疾患があるので困っている」といった質問など。
検疫看は話を聞き、必要な検査を促し、適切な医療機関を紹介します。
そのほか広報の仕事として、旅行先での感染状況や、注意すべき感染症などの案内も行います。
そのためには感染症の情報収集を行うことも重要な仕事になっています。
予防接種業務
日本では根絶状態にある感染症でも、海外には狂犬病や黄熱病などが流行している地域があります。
そこへ渡航する人々には、予防接種を行わなくてはいけません。
検疫看は、電話予約の際の予診や予防接種の介助を担当するほか、予防証明書の発行に関わります。
検疫看のメリット&デメリット
メリットから説明します。
何といっても検疫看は国家公務員だということ。
国に雇われているので、入職すれば終身雇用です。
給料も安定していて、勤務年数によりアップしていきます。
また、福利厚生が手厚いことも知られています。
それから1番の魅力は、オンとオフの勤務時間がはっきりしていること。
1週間あたりの勤務すべき時間が決まっているので、だらだらと残業ということもなければ、オンコールのような夜間の呼び出しもほとんどありません。
これはありがたいですね。
また育児中や介護中の人が利用できる様々な制度(勤務時間の変更、短縮勤務、有給休暇制度の利用など)も整っています。
たとえば、子どもが病気のときなどに突然の休暇を取りやすいというのが良いですね。
オンとオフがはっきりしていれば、平日もプライベートな予定を立てやすくなります。
次はデメリット。
勤務地を選べないことです。
全国の空港や港湾に検疫所がありますが、どこに配属されるのかわかりません。
また2~3年ごとに転勤があると思っていいでしょう。
家族と一緒に転勤できればいいのですが、単身赴任も視野に入れておかねばなりません。
もうひとつは、感染リスクが常にあるということです。
もちろん、検疫所内や相談窓口は消毒が徹底されており、防護服の着用や予防対策を万全に施して仕事にあたっています。
しかし特異な感染症の罹患者に接触する機会が多い検疫看は、どうしても感染症にかかるリスクが高く、完全に防げる保証はないのです。
今は、新型コロナウイルスの対応に追われていますが、いつまた新しいウイルスが入ってくるかわかりません。
その最前線で仕事をしていることを、肝に銘じておく必要があります。
検疫看になるにはどうすればいいの?
検疫看は、厚生労働省に所属する国家公務員です。
ですから募集は厚生労働省のHPに記載されます。
欠員が出た時に載るので、希望者はすぐ対応できるように書類などを整え、チャンスを逃さないようにしてください。
検疫看の応募条件は、4つ。
①日本国籍を有する人 ②看護師免許を取得している人 ③看護師として3年以上の臨床経験(医療機関)のある人 ④普通自動車免許を取得している人です。
注意書きには「准看護師として働いた機関は経験として含まれない」「自動車免許が必要なのは、業務上運転する場合があるため」と記されています。
勤務地は全国の港湾・空港の検疫所になります。
ちなみに本所(海港は小樽、仙台、東京、横浜、新潟、名古屋、大阪、神戸、広島、福岡、那覇。空港は成田空港、関西空港)は13か所。
支所(海港は千葉、川崎、清水、四日市、門司、長崎、鹿児島。空港は千歳空港、仙台空港、東京空港、中部空港、広島空港、福岡空港、那覇空港)は14か所。
出張所は海港62か所と空港21か所の計83か所です。
必要な書類を送り、一次審査に通った人は、二次審査(人物試験)に進めます。
二次に合格できれば採用決定です!
では、具体的に説明していきましょう。
一次は書類審査です。
応募に必要なものは3つ。
- 履歴書(写真貼付)1通
連絡可能なアドレスの記載は必須。パソコン・ケータイのアドレスも可。
- 看護師免許証の写し1通
- 文章提出
横書き1200文字程度のレポートを書くこと。手書き、ワープロ打ち、いずれも可。
表題と氏名を最初に書くこと。
テーマは「感染症と水際対策について」。
テーマはいつも同じではなく(主に海外渡航者に対する感染症対策といった内容が多い)、今募集中のテーマがコレです。
この3つを封筒に入れ、厚生労労働省 医薬・生活衛生局検疫所業務課検疫所管理室人事・給与係へ郵送します。
審査期間は1か月~2か月(新型コロナの流行が拡大し、忙しいときは審査期間が長くなることもあり)。
合格・不合格、いずれの場合も連絡が届きます。
合格すれば二次審査へ進みます。
二次は人物試験(面接試験)です。
住まい近くの検疫所での面接になりますが、日程は相談に乗ってもらえるようです。
基本は土日・祝日は除く平日のみ。
検疫所までの交通費は自己負担です。
二次審査に合格できれば、晴れて「検疫看」です!
勤務条件は、全国の港湾・空港の検疫所。
採用後は全国転勤となります。
扶養手当、住居手当、通勤手当、地域手当、ボーナスなど諸手当の充実は嬉しいですね。
なお、検疫看は、全国転勤のない「期限付職員」(国家公務員)も同時募集されています。
こちらの要項も紹介しましょう。
「期限付職員 検疫看」の応募条件ですが、以下に該当する人は応募できません。
①日本国籍を有しない人
②国家公務員法第38条により国家公務員になることができない人。
具体的には、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでの人、または執行を受けることがなくなるまでの人。
一般職の公務員として懲戒免職の処分を受けて2年を経過していない人。
日本国憲法またはその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党、その団体を結成した人、その政党や団体に加入した人。
平成11年改正前の民法の規定による準禁治産の宣告を受けている人。
「ただし心神耗弱を原因とするもの以外」となっています。
応募資格の条件は
①看護師免許を取得していること
②医療機関において4年以上の臨床経験を有すること(うち3年は正看護師として従事)
③普通自動車免許を取得していること
では、具体的に説明していきます。
一次は書類審査です。
応募に必要なものは4つ。
- 履歴書(写真貼付)1通
ワープロ可。学歴、職歴、資格など必要事項記載。連絡可能なアドレスは必須。
- 職務経歴書
ワープロ可。A4用紙横書き。様式自由。
- 看護師免許証の写し1通
- 小論文
横書き1200文字程度の論文を書くこと。手書き、ワープロ打ち、いずれも可。
標題と氏名を最初に書くこと。
議題は「他者とのコミュニケーションを取るために必要なことを自身の経験を通して述べなさい」。
この4つを封筒に入れ、厚生労労働省 医薬・生活衛生局検疫所業務課検疫所管理室人事・給与係へ郵送します。
一次審査に通った人には、面接日程の調整についてメールが入ります。
不合格者には郵送で結果が通知されます。
二次審査(人物試験)の面接場所は以下の検疫所になります。
小樽、仙台、厚生労働省(本省)、新潟、名古屋、関西空港、神戸、広島、福岡、那覇。
交通費等は自己負担です。
二次に合格できれば採用決定です!
勤務地は、検疫所(本所、支所、出張所)。
採用決定後に相談となるが、採用された検疫所の状況により、他の検疫所や療養施設、待機施設へ短期間出張することも有り、となっています。
募集は令和3年11月19日から始まっています。
雇用期間は令和4年1月1日~随時。
雇用期間は、原則、採用日から1年間。
採用形態は、常勤の国家公務員です。
ですから、国家公務員法に基づく守秘義務や兼職制限等が適用されます。
給料、各種手当、福利厚生なども詳しく載っていますので、厚生労働省のHPで確認してください。
任期付職員(検疫看)の魅力は、全国転勤がないことです。
まとめ
空港の利用客に対して、予防接種や健康相談を受ける業務を、空港で働く看護師が行ってきました。
しかし、2002年11月のSARSコロナウイルスを病原体とする新しい感染症の発覚を端に、2003年検疫官として看護師が配置され、検疫業務を行うようになりました。
検疫看は、海外から日本へ来た人々が、感染症にかかっているかどうかを検疫し、ウイルスを持ち込まないようにくい止めます。
今は、新型コロナウイルス感染症に焦点が当たっていますが、実は虫刺され、打ち身、頭痛といった体調不良を訴える旅行客も多いのです。
ですから、検疫看には感染症以外にも、臨床現場で培った豊富な知識や経験が求められています。
検疫看に向いているのは、的確な情報伝達ができる人やコミュニケーション能力の高い人です。
というのも、航空会社、救急隊、警察など、役割をもった多くの人々と連携して働く必要があるからです。
検疫は「日本を守る」という大きな使命感があれば、遣り甲斐を感じられる仕事だと思います。
看護師資格を活かし、新しい仕事へ挑戦してみませんか。