飼い主がいる犬でも、出血するほど噛まれている場合は、病院へ行きましょう。
日本人は、破傷風の予防接種を幼少期に受けているため、噛まれても破傷風を発症することはほぼありません。
しかしワクチンの効果は年齢とともに弱まります。
ですから「念のため診てもらいませんか?」と優しく伝え、病院へ連れていくことをお勧めします。
その際に、施しておきたい応急処置と、何科を受診すればいいのか、また犬に噛まれた時に注意しておきたい感染病も併せて紹介します!
目次
噛まれた直後にすべきこと
噛まれたり引っ掻かれたりしたときは、患部に水をかけて洗い流してください。
水道水を出しっ放しにして、5分以上の流水を。
5分経ってもまだ血が出るならば、幹部を圧迫止血します。
圧迫止血とは、清潔なガーゼやタオルなどで、患部をグっと強く押さえて止血する方法です。
消毒液は使わなくてもOK。絆創膏を貼ることはNG。ここまでが応急処置です。
その後、患部を心臓より高くしながら病院へ行き、診察を受けてください。
質問者さんの義母の話によると、その場に飼い主さんが居たようです。
日本では、飼い犬のワクチン接種が義務付けられていますから、飼い主さんも犬に接種させていたと考えられます。
しかし、たまに接種させていない人もいますから、必ず安心とは断言できません。
義母が高齢者ということを踏まえても、病院で診てもらった方がいいでしょいう。
蛇足ですが、公園などにいる犬や猫とじゃれていて、引っ掻かれることがあります。
野良犬や野良猫などの場合です。飼い主がいない場合、どのようなウイルスや菌を持っているかわかりませんから、必ず病院へ行くようにしましょう。
何科で診てもらう?
犬に限らず、動物に噛まれたり引っ掻かれたりしたら、基本的には救急外来を受診しましょう。
外科系の医師がいる病院がベストです。
近くに救急外来がないときは、整形外科、外科、成形外科を標榜している病院でも大丈夫です。
また、動物に噛まれたことで自身の皮膚や肉の一部が欠けてしまったり、出血が止まらなくなったり、骨折が疑われたりする場合は、ためらうことなく噛まれた場所に救急車を呼んでください。
すぐに診てもらう必要があります。
受診した時に医者へ伝えること
受診の際は、時系列に沿って事態を詳しく伝えましょう。
たとえば、今日の〇時〇分、散歩中に飼い主と喋っていた時、突然犬に噛まれてしまった。
あの犬は〇〇〇〇だと思う。血が出たので家に帰り、5分間流水で患部を綺麗し、そのあと圧迫止血をして血が止まった。
その後急いで病院へ来た、という様に行動の流れを分かりやすく説明してください。
次に、義母の基礎疾患の有無を伝えます。
たとえば、心臓の病気がある、呼吸器系の疾患がある、糖尿病をもっている、といった病気の有無です。
薬を服用している場合は、その薬も伝えます。
もし薬の名前が具体的にわからないときは、お薬手帳を持参するといいでしょう。
医師は服用履歴も見ることができるので、参考になると思います。
次に(記憶にある限りでいいのですが)破傷風ワクチンの接種の有無も伝えましょう。
破傷風は、1963年(昭和43年)から小児期の予防接種の中に含まれるようになりました。
つまり、1963年以前の方は免疫がありませんので、受傷時には接種が必要になります。
質問者さんの義母は、現在80歳ということですから、破傷風のワクチンを接種していないと考えられます。
治療は、傷の診察から始まります。
組織の損傷はどのくらいの深さなのか、犬の歯は残っていないか、関節まわりを傷つけていないか、骨折していないかなどを診察します。
骨折や異物が感じられるときは、レントゲンを撮ることもあります。
もちろん洗浄も行います。洗浄は細菌の数を減らし感染を防ぐ効果があるからです。
噛まれた部分の細胞を取って細菌を調べる培養検査行うこともあります。
外傷時の小さな傷は、基本的に縫合しないことが多いです。
縫ってしまうと細菌を傷の中に閉じ込め、膿が傷の中にたまるためです(患部の損傷度合いにより縫うこともあり)。
次は、感染予防の抗生剤を内服します。
どのような抗生剤を使用するかは、侵入したであろう菌の種類や受傷者の免疫力などを考慮して医師が決定します。
薬は指示に従い飲み切ってください。患者が破傷風の予防注射を打っていなければ、打つことを勧められます。
過去に打ったことがあれば、治療時の1回接種ですみます。
打ったことがなければ3回(のちに2回通院)打つ必要があります。
ちなみに、外傷時のワクチン接種は健康保険適応ですから、金額はそれほど高くありません。
ご安心ください。
質問者さんの義母は、出血だけで済みましたが、力の強い大型犬だと人間の肉片や指を食いちぎることがあります。
その際は、どんなに小さな肉片でも回収し、綺麗に洗って氷浸けにして、必ず病院へ持参しましょう。
6時間以内であれば欠損した組織の縫合手術が可能だからです。覚えておきたい豆知識ですね。
帰宅してからの過ごし方
数日は安静に過ごしましょう。
患部の傷は流水で毎日洗い、清潔さを保ってください。
2~3日経ってから、感染チェックのため再び診てもらいましょう。
再診で大丈夫ならば、もう心配はありません。
縫合していた場合は、指定された日に抜糸を行う必要があります。
抜糸までくれば一安心です。
ところで、病院で処置してもらっていても、経過観察期間に傷口が痛くなったり、熱を帯びたり、体調不良になることがあります。
そのときは、時間を置かず急いで病院へ行ってください。
菌などが繁殖していると考えられます。
知っておきたい! 犬に噛まれ発症する病気
犬に噛まれたとき、発症の可能性があるのは主に3つです。
- 破傷風
- 狂犬病
- パスツレラ症
①破傷風
破傷風は、破傷風菌が傷口から体内に入り、菌の毒素によって筋肉がこわばったり、呼吸障害をおこしたり、運動神経にダメージを与えたりする病気です。
発症すると重症化することが多く、死亡する確率も低くありません。
感染の元になる傷は、動物に噛まれた、怪我、やけど、凍傷などが多く、本人に自覚がないような極小の傷でも原因となりえます。
破傷風菌の潜伏期間は、3日~21日程度。初期に現れる症状は、口が開けづらくなったり(開口障害)、首筋に張りを覚えたりします。
次第に顔の筋肉がこわばり、引きつったような表情になります。
重症化するとけいれん発作がおきます。
自律神経の異常もおき、血圧や心拍数が急激に変化することがあります。
『対処法』・・・噛まれたらすぐ応急処置を施したのち、病院へ行きましょう。
症状が出る前に治療を受ければ、発症を抑えられます。
なお、破傷風は発症するまでに潜伏期間があり、噛まれた数日後から異変が起こり始めます。
放っておくと一大事になることもありますから、噛まれたら必ず医者に診てもらうようにしてください。
②狂犬病
狂犬病は、動物に噛まれることによってウイルスが体内に侵入し、感染する病気です。
病名から<犬に噛まれて感染する>というイメージがあるかと思いますが、実は犬だけではありません。
コウモリやアライグマなども感染源になります。
狂犬病は人間が感染すると100%死亡する恐ろしい病気です。
日本では、1950年に狂犬病予防法が制定され、犬の登録、狂犬病の予防接種、野犬の管理が徹底されたため、狂犬病は撲滅されました。
しかし、日本以外の国では今も狂犬病が発生しています。
海外で犬などに噛まれた人が日本に来て、発症した例は、1970年に1人、2006年に2人、2020年に1人います。
国際交流が進む中で、狂犬病は過去の病気ではないと捉えることもできます。
噛まれてから発症するまでの潜伏期間は、1週間~1年以上(平均1か月~2か月)と考えられています。
発症すると、発熱、頭痛、筋肉痛といった体の不調や、食欲不振、嘔吐、空咳といった風邪に似た症状が現れます。
さらに症状が進むと、知覚異常や痙攣がおきます。
たとえば、近くにあるものを噛みついたり、水が飲めなくなったり、よだれを垂らしたり、といった症状です。
それが数日続いた後に、昏睡状態に陥り、やがて呼吸困難になり、死に至ります。
このようにとても怖い病気ですが、潜伏期間にワクチン等の接種をすれば回復に向かいます(ただし発症してしまうと死亡)。
『対処法』・・・噛まれた患部の応急処置をしたあと、なるべく早く医師に診てもらいましょう。
ワクチンを接種してもらうことで、発症を予防できる可能性が高まります。
日本において、狂犬病は撲滅状態ですが、海外でワクチンを打っているかどうかわからない犬に噛まれたら(そのまま帰国してしまったとしても)、一刻も早く病院へ行き、医師に診てもらってください。
近年、日本の医療現場では狂犬病患者は発生していないことから、狂犬病の検査をスルーされることがあります。
疑いがあるときは医師に事情をよく説明しましょう。
なお、狂犬病のワクチンを人間が接種するときは、1.5万円以上の実費がかかります。
③パスツレラ症
パスツレラ症は、パスツレラ菌による感染症です。
犬の約75%、猫はほぼ100%が、口腔内常在菌として病原体を保有しています。
この感染症は、ほとんど知られていませんでした。
これまでは皮膚化膿症が主な症状と診断されてきたためです。
しかし近年の調査で、呼吸器系の疾患や、骨髄炎、外耳炎といった局所の感染症、敗血症や髄膜炎といった全身の重症感染症になることがわかりました。
さらには、死に至ったケースもあります。
犬や猫はパスツレラ菌を持っていても症状が出ず、症状が出るのは人間とお考えください。
ただし、パスツレラ菌が体内に入っても無症状で済むことがあります。
しかし、免疫力落ちている時は無症状とはいきません。
低下時は戦う力が弱く、重症化しやすくなるのです。
中でも、高齢者や糖尿病にかかっている人、ステロイドを使用している人などは、要注意です。
パスツレラ菌に感染すると、数時間で受傷したところに痛みが走り、赤く腫れたり、熱を帯びたりする蜂窩織炎(ほうかしきえん)になることが多いです。
そのうえ、犬や猫に噛まれたり、引っ掻かれたりしなくても、犬や猫との接触でパスツレラ菌を吸い込み、呼吸器系(肺炎・気管支炎、副鼻腔炎など)で感染することもあります。
接触とは、寝室で一緒に寝たり、口移しで物を与えたりする行為です。
このことから、免疫不全といった基礎疾患がある人や、幼い子どもがいる家は、過剰な接触がないように心がけなければいけません。
『対処法』・・・外傷に痛みが出たり、赤く腫れたりしたら、すぐ病院へ行くようにしましょう。
傷がなくても経口感染や飛沫感染という場合もありますから「体調がおかしいな」と思ったら、医師に診てもらうようにしてください。
治療は早期に抗生物質を投与することです。
予防を心がけるならば、過剰なスキンシップも見直しましょう。
まとめ
質問者さんの義母は80歳と高齢者ですから、必ず病院で診てもらいましょう。
噛まれた傷が深い場合の最善は救急外来です。
近所になければ外科系の病院がいいでしょう。
浅い傷の場合は、皮膚科、感染症内科もOKです。
「犬や猫に噛まれたり引っ掻かれたりしても大丈夫。慣れているから」という愛犬家もいますが、やはり感染症が気になりますから、安心するためにも診てもらってください。
中でも基礎疾患があったり、体調不良であったり、免疫力が落ちている高齢者は、悪化・重症化しやすいので要注意です。周りにいる人が病院へと誘ってください。
何を言っても、病院へ行くことを嫌がる人がいます。
無理強いはできませんから、その時は経過観察になってしまいますが、患部が腫れてきた、熱を帯びてきた、硬くなってきる、といった様子が見られたら、多少強引でも医療機関へ連れて行ってください。
なお、義母の話によると、犬には飼い主さんがいたとのこと。
こういう時は、相手方の連絡先をもらっておくのがベストです。
飼い主さんは、噛まれた方のその後を気にかけていると思います。
義母の傷の様子をお伝えすることで、安心されるかと思います。
ペット保険(他人に噛みついたとき、被保険者に法律上の損害賠償責任が生じた場合に補償する保険)に入っている人でしたら、申し出てくれるかもしれません。